2012.05.02 ねがはくは 花の下にて春死なん そのきさらぎの望月の頃・・西行
「酒はたぼ(若い女性)」なんていう。
が、白魚を一〇本並べたような、か細い指先で九谷や有田の訪問着を着たような徳利で、揃いのガラのやけにちっちゃい盃にちょろちょろお酌もいいのだけれど、・・まどろっこしい。
一人酒には、ぐい飲みに手酌が一番。
肴は・・、生雲丹の旬にはちと早い。
が、「しお雲丹」は、熟成が最も豊かになる頃合い。
ちょっぴり「しお雲丹」を箸の先でとり嘗め、コシの強さを誇る「純米酒・ひこ孫」をちょっぴり呑む。
小さい蒼い炎がのど元をつうと走り抜け、思わずふうっと黄金の吐息が漏れる。舌にねっとりとまとわりつく「しお雲丹」は、荒磯の濃厚な香りを鼻の奥に充溢させる。
そこに「ひこ孫」のベルベットのような芳醇なふくらみが、後を追って絡み融け込む。
塩辛い「しお雲丹」は塩分摂取量が云々などという野暮は、吐息と一緒に流してしまう。
そお、輝く「しお雲丹」をマッチ棒の先ほどに掬い取り、 海をわが舌の上に!
そして、日本で最初に蔵元の全量を純米酒製造に切り替えた「神亀酒造」の誇り、ボディの強い「ひこ孫」を一口。
その刻、他に客がいる蕎麦屋の世界が自分一人だけのものになる。
体の輪郭が蕎麦屋の空気に融け込み、散華するような恍惚感に包まれていく。
日本海を酒肴にしてしまう、積丹は神恵内の漁師自家製の「しお雲丹」。
小樽・蕎麦屋・籔半の蕎麦屋酒の 至福の瞬間。
板の間に片膝たててひとり酒、あぁ、春の宵。
注:「酒は燗、肴は刺身、酌は髱(たぼ)
酒はほどよく燗をして、肴は刺身で、酌は若い女性にしてもらうことが、酒飲みの理想の境地 。
「髱(たぼ)」は、日本髪で、襟足にそって背中のほうに張り出した部分。転じて、若い女性を指す。